安定的な皇位継承に向けて
※毎日新聞(令和2年3月6日付け・朝刊)で掲載されたインタビューにつきまして、発表した有村の持論を原稿に致しました。
昨秋の即位礼正殿の儀の直前に起こった台風19号による甚大な被害を直視し、奉祝パレードの延期を政府に提案した。国民と共にあられるのが皇室の伝統であり、今上陛下もご決意を明らかにされている。分断の要素が多い社会にあって、被災者を含め、国民統合の象徴としての陛下のご存在を強く意識している。世界各国が敬意を払う日本の皇室において、万世一系の皇統こそ、権威の源泉だと考える。
伝統であっても、意味のない慣習であれば、時代を経て淘汰される。にもかかわらず、なぜ日本で、父方系の血統による皇位継承が、126代二千年以上もの長い間、一つの例外もなく続いてきたのかに想いを馳せたい。これはどの時代においても、皇位継承順位の原則を明示し、皇室の揺るぎない正統性を堅持することによって、皇位をかけた権力争いによる社会の分断を避けようとした、いわば民族の知恵でもあったのだろう。この歴史の蓄積に全く敬意を払わず、今の価値観だけで皇位を論じることには、違和感を覚える。
「女性皇族が結婚後も皇室に残る」と形容される「女性宮家」という言葉は、一見聞こえはいいが、実は現在でも定義がなされておらず、人によって意味合いが相当違う。仮に女性宮家が実現すれば、民間の男性が女性皇族との結婚によって皇族となることが歴史上初めて起こり、もし将来その子供が皇位に就くようなことになれば、いくら父方をたどっても歴代の皇統とつながらない、異質の血統となってしまう。126代例外なく続いてきた父方系の血統による皇位継承の伝統が終焉し、民間男性を父祖とする別の王朝が生まれることになる。皇統の正統性に疑問符がつくことになれば、国民世論は分断される。皇室に対して世論が二分三分した先に、果たして皇室の尊厳や国民の安心安寧があるのだろうか。女性・女系天皇を支持する人の中でも、男系による皇位継承を続けられるなら、それに越したことはないとの意見も多い。まずは、その国民的合意を得る努力をするべきだ。
悠仁親王殿下までの皇位継承順位は明確に決まっており、今後数十年の皇位は安定している。この間に、現実の課題である皇族の先細りを直視し、悠仁親王殿下が即位されたときに、皇族が誰もいない事態を避ける方策を打たねばならない。悠仁親王殿下を補佐する皇族をいかに確保するのか、極めて今日的な課題だと認識している。
まず、現存の貴重な宮家を断絶させない方策を考えるべきだ。現在、跡継ぎがいらっしゃらない宮家において、敗戦によって皇籍離脱を余儀なくされた旧皇族の男子孫を養子として迎え入れ、現在の宮家を継承して頂く案もある。その場合、養子となられる方の次の世代から皇位継承順位に加わって頂くのであれば、国民的な共感も生まれやすいのではないだろうか。
万世一系の皇位継承は、いつの時代も、皇室と国民双方が互いに敬意をもって、相当な努力を重ね紡いできた日本の国柄。国民統合の象徴であられる皇位継承者の正統性を、軽々に揺るがすべきではない。